くれいじーはーつ

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『モキュメンタリーズ』感想。今モヤッとしてるなら読んで欲しい

 

ドキュメンタリーというと先日も記事にしましたが、事件のその後だったり難病の人がどう病気と向き合っているのかだったり、各局深夜にやってるテレビ番組だったり、映画なんかを思い浮かべる方が多いかと思います。基本的には事実に則って、いわゆる"ヤラセ"が無い、映像に映るものが真実として作られるものですが、一方『モキュメンタリー』というのは"モック(まがい物・作り物)"+"ドキュメンタリー"が合体して出来たものであり、言ってみれば『フェイクドキュメンタリー』というようなヤツです。

 

小説だとノンフィクションといわれるように、そもそも漫画でドキュメンタリーを描くというのはどうしてもフェイク要素(表情であったり言葉であったり)が入ってしまうため、そういう点ではドキュメンタリーとして謳うのは難しいように感じますが、この『モキュメンタリーズ』(百名哲/KADOKAWA)は漫画で『モキュメンタリー』として素晴らしい『ドキュメンタリー』を表現されていると思います。

 

 

nlab.itmedia.co.jp

内容についてはさすが虚構新聞様、分かりやすいので上のリンクを参照のこと。僕はネタバレしながら感想というか、ここが素晴らしいという話をしていきます。

 

■第一話「Tig****はWEB上から消えた」

ネットオークションで同一のAVを落札し続けている人のお話。AVを落札していたのは誰なのかを作者百名さんと友人が追っていくわけですが、落札者が会ってくれるとか都合の良い話の展開はさておき、とにかくラストカットが素晴らしいのです。先日も書きましたが、終わりよければすべてよし、特にドキュメンタリーにおいて余韻を残すラストカットは超重要だと個人的には思っているので、この落札者の一人が鼻歌混じりに、晴れやかな表情でトラックを運転している姿がもう感慨深い。その前に百野さん(ストーリーテラー役)が彼がAVを落札する必要がなくなった=生きがいを失ったのでは、という話に対し「そう簡単には からっぽにならない気がする」という言葉もあるからこそ、あのカットが輝いて見えます。

 

■第二話「走れ、メロス」

オーストラリアから来たアイドル好きの外国人が徒歩でライブ会場に向かうお話。ザ・ノンフィクションあたりでやりそうな感じですね。まずもうこのお話は入りが素晴らしい。「メロスは激怒した ~中略~ ロリコンという烙印を押された彼は すでに仕事も家族からの信頼も失い 祖国は彼にとって居るべき場所ではなくなっていた」真っ黒なページで語られる彼の背景。ところがページをめくると明るい表情で「モモノサン」と"僕"を呼ぶ彼の姿が。扉絵も清々しくて、本当にこういうドキュメンタリー映像を見せられているような気分になります。

 

とっても都合のいい話ですが、個人的には一番好きな話です。

地下アイドルが出てきたり、怪我したり、そもそも彼らの歩く理由などまぁドラマチックな内容ですが、その合間合間に入る百名さんの彼らに抱く思い、そして自分への思いというのが心に響きます。

誰かを奮い立たせることで 自分にも火を灯したいんだ

 

オチは散々歩いておきながらチケットを持ってなかったメロスが会場の外で同じく音漏れを楽しむオタクたちと踊る姿で終わるんですが、これがまぁ素晴らしい。オタクの輪の中で踊るメロス。

「旅の果に僕は 無言のまま踊り狂うオタクのオーストラリア人を見た」

そしてそこで終わらないのがポイント。撮影者である自分が映ること自体がもうドキュメンタリーではないのですが、カメラを回す自分のコマで

なぜだか涙が溢れた

これで終わるのが作品として、メロスの物語かと思いきや彼の物語でもあり、軍曹さんの物語であり、自分の物語でもあった、というのが伝わります。そう、メロスのドキュメンタリーと思いきや、撮影者である百野さん自身のドキュメンタリーでもあったと。アイドルとオタクが作り出す輪を盆踊りと評する場面がありますが、最後もそういう感じなのがまた感慨深いですね。

 

■第三話「野宿の墓」

野菊の墓』っぽいタイトル。自分探しの旅を続ける友人の光と影、ということでこれもまた百野さんが異世界転生よろしく、技術で嫁さんまでもらいそうになるというオモシロ展開もありますが、自分探しってなんだ、というのがテーマになっています。これはまぁフィクション要素が強いのですが、やはりラスト周辺のセリフが胸に響きます。

 

「瞬間的な熱量だけでこの世の果てまで あるのかどうかもわからんものを

探しに行けちゃうんだもんな ……いや オレにも出来たはずだったんだ

いつだったのかわからんが 確かに」

「多いのかもしれないな さすらいそびれたやつって」

 

僕にもあったのかな…と考えるとなんだかジンとします。

 

■第四話「陸軍ナポリタン」

これで一本ドキュメンタリー映画が作れそうな説得力が…あるようなないような。ドラマチックな内容で、ついうっかり信じてしまいそうになります。内容については上のリンクで詳細に語られているのでそちらをご参考に。

これが一番モキュメンタリーっぽい感じがしますね!

 

 

そもそもが冒頭で「私小説とドキュメンタリーテイストを合わせ」と言っているので、あくまでドキュメンタリーっぽいものであり、テレビ的映像的な枠組みと一緒にみてはいけないものなのかもしれないですが、それにしたってまるで本当にこの人がいたかのような(実際にモデルの方がいらっしゃるそうですが)リアリティがあり、撮影者(当事者)の感じた思いがあり、胸にグッとくる作品だと思います。

 

 

僕は百名先生の短編集『冬の終わり、青の匂い』が大好きで、全体的なセリフ回し、特に独白のように零れる地の文は素晴らしいと思ってます。『聴こえてくる歌』なんかはラジオとテレビと違いはありますが、なんとなくカメラマンとして働いていた自分を重ねてじわっときます。『桜の頃』もラストカットが素晴らしい顔をしていていいですね。短編集のタイトルにふさわしいお話だと思います。

 

ハルタ掲載なので本が出るのがなかなか遅いですが、2巻を心待ちにしております!