くれいじーはーつ

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『ザ・ノンフィクション だから、アイドル。TOKYO 不思議の街の住人たち』のラストカットの素晴らしさ

地下アイドルの"きらら"さんをご存知でしょうか。

 

最近だとTBS「人生逆転バトル カイジに出演したことでも話題になりましたが、彼女(彼)は性同一性障害をもち、多額の借金を抱え、鳥の餌レベルの米を主食にし、水風呂に入り、建設現場で働き怪我をして入院して、今度はクラブで働いて、それでも地下アイドルとして自己表現をして……と、壮絶な人生を送っている方です。

 

彼女はFNSドキュメンタリー『だから、アイドル。TOKYO 不思議の街の住人たち』(ザ・ノンフィクション)に登場しました。ネットでも話題になった回なので、覚えている方も多いんじゃないでしょうか。きららさんと、エリザベスさんという地下アイドルお二人のお話です。

 

www.fujitv.co.jp

 

……と、その内容に言及してるととても長くなるので、ここは元映像カメラマンとして特にこの回が印象に残ったのはラストカットにあるよ、というお話。ザ・ノンフィクションシリーズはどれも面白いんですけどね。

 

さて、ドキュメンタリー現場(あくまでテレビでのお話)において、対象者やテーマを選んだり交渉したり、基本的に采配を振るうのはディレクターではありますが、一度カメラが回ってしまうと横から口を出すのは至難の業です。もちろんずっと回しているわけではないので、その合間に指示することは可能ですが、連続性が求められるドキュメンタリーにおいてイチイチそんなことしていたら話になりません。まさに『カメラを止めるな』ですね。

 

そうなると「この作品ではアレを伝えたい」という意識の擦り寄せ・目標統一が大事になってきますが、人それぞれ、伝えたいことは一緒でも方法が違ったり、やはり見えてるものが違います。ディレクターとしては話している全体的な顔が欲しかったけれど、カメラマンはその目から零れそうな涙が気になり、寄っていく。よくある話ですね。それがいい方向に転ぶこともあれば、あとから陰で言われることもあります。その辺良いカメラマン、音声マンってなんだろうというところに繋がりますが、それはまた別のお話。

 

上記のことを意識してみていくと、ドキュメンタリーというのは登場人物もさることながら、ディレクター、カメラマン、音声たち技術がとても一生懸命に創り上げているもので、まず起こることを見逃さない、それをどういう意図で切り取るか、必死に思案しながら出来ているものです。カメラマンとしては構図、寄り引き、ボケ方……色々あります。きららさんのシーンでいうなら、怪我をしたあと、駅で座ったままになってしまう時、あそこまでロングを引く(ホーム内ではなくどこか違う高い場所から)のは凄いなぁと思いますね。

 

そしてタイトルの通り、この作品の完成度を高めているのはラストカットにあります。「終わりよければすべてよし」という言葉の通り、作品の最後を締めるのにこれ以上ない完璧なカットだと個人的には思ってます。このラストカットに敵うのはそうそう無いんじゃないかなぁ。

 

映像は出せないので説明すると、新たなスタート踏み出した地下アイドル・エリザベスさんたちがライブを終えたあと、「世間が求める偶像=アイドル」と「自分がしたいこと=アイドル」との違いをナレーションをバックに路地を歩くシーンなんですが、この2人の頭の上には「AKB48劇場」の看板があるんですよ。地下アイドルを最高に上手く表現した図ですね。また夜ということもあって看板はちょっとぼやけて見え、ピントが合う2人とその周りの雑然とした看板はしっかり見えるというこの対比もたまらない。最高にクールなカットだと思いますね。社会派な内容のテレメンタリーやNNNだとあんまり多くはないですが、特に人物密着系はこういう深いカットが出てくるので、そういう視点で見るとドキュメンタリーはもっと面白くなりますよ!